ペインクリニックQ&A

ペインクリニックって何をするところ?

「神経ブロックを中心とした痛みの治療を専門に行うクリニック」です。

 痛みはいろいろな疾患の症状の一つとして現れることが多いです。ふつうは、ケガをしたら整形外科を、帯状疱疹ができたら皮膚科を、頭痛がひどかったら脳神経外科や脳神経内科などを受診すると思います。症状が軽ければかかりつけの内科クリニックなどでも対応してもらうことができます。そこで疾患の治療として飲み薬や処置、場合によっては手術を受けることもありますが、痛みがあれば痛み止めも処方されます。

 多くの場合は、とくに「痛み」に注目して特別な治療をしなくても、痛みの原因に対する治療を行いながら痛み止めを飲んでいるうちに痛みも治っていきます。または、痛みが完全になくならなくても、痛み止めを使うことで日常生活が普通に送れるようになれればOK、という場合もあります。そのような場合はペインクリニックの出番はありません。

 しかし、「通常の治療では痛みをコントロールするのが難しい場合」というのがあります。例えば、痛みの原因が非常に重症の場合や、痛み止めの薬が身体に合わない場合、手術を勧められたけれどなるべく受けたくない場合などです。このような場合はペインクリニックの出番になります。

どういうときにペインクリニックを受診すればいい?

 「痛みがなかなかよくならないとき」や「治療を受けても痛みが強いとき」、ペインクリニックでの治療が役に立つことがあります。

 例えば、
「痛みの原因が分かっていて治療も受けているけれど、痛みがなかなかよくならない」
「『痛みの原因は治った』と言われているのに、痛みが続いている」
「病院で検査を受けても、『痛みの原因がよく分からない』と言われた」

 という場合は、ペインクリニックでの診断や治療で、解決の糸口が見つかることがあります。ただし、ペインクリニックでの痛みの診断には限界がありますので、まずはお近くの病院で痛みの原因について詳しく調べてもらうことをおすすめしています。

 痛みの感じ方には個人差が大きいと言われています。「そんなことで痛いの?」と思われるような疾患でも本人にとっては強い痛みを感じていることがあります。そのような場合に痛みをがまんしてはいけません。なぜなら、痛みをがまんしていると痛みに敏感になってしまうためです。

整形外科とはどう違うの?

 おおまかにいうと、整形外科は「骨や筋肉の痛みの原因診断・手術・リハビリ」を専門としています。レントゲンやMRIなどの画像検査で痛みの原因を突き止めて、骨や関節の異常に対しては手術で治療することができます。また、五十肩のようにリハビリテーションが治療に重要な疾患もあります。膝や肩への関節注射の他に、一部の神経ブロックが行われることもあります。
 特に「ケガに関係した痛み」や「動作と関係する痛み」の場合には、骨や関節などの筋骨格系に痛みの原因がないかを調べることが先決ですので、まずは整形外科を受診していただくことをおすすめします。

 それに対してペインクリニックは「骨や筋肉以外の原因も考慮した痛みの診断」に加えて「神経ブロックを中心とした痛みの治療」を専門としています。いろいろな検査をしても異常がないと言われた場合でも、ペインクリニックで診察・治療を行っていくうちに痛みの原因が少しずつ分かってくる場合があります。ペインクリニックでは、さまざまな神経ブロックを中心に、ペインクリニック以外ではあまり行われない治療も行っています。

ペインクリニックが少ないのはどうして?

 ペインクリニックを担当しているのは「麻酔科医」が多いですが、「麻酔科医」は手術の麻酔で忙しくてペインクリニックにまで手が回らないため、というのが理由の一つです。

 では、痛みの治療を行うペインクリニックを「麻酔科医」が担当するのはなぜでしょうか?その理由は2つあります。

 1つ目は、「ペインクリニックで行う神経ブロックは手術の麻酔でも行われるため」です。
 麻酔科医になるとまずは手術の麻酔を中心に研修します。そこで「硬膜外麻酔」という神経ブロックのトレーニングを積みます。これは、「脊髄という背骨に囲まれた太い神経の近くまで手探りで針を進める」というもので、うまく効けば手術中から手術後にかけて傷の痛みを大幅に緩和してくれる優れた方法です。その一方で、硬膜外麻酔を失敗すると、神経を傷つけたり頭痛が起こったりするだけでなく、命にかかわるような合併症が起こったりもする、ある意味危険を伴う手技でもあります。ですので、初心者のうちは上級医の先生が必ず手取り足取り指導をします。そのうえで、回数を重ねて上達していくと、効果的な硬膜外麻酔を安全に行えるようになっていきます。
 「硬膜外麻酔」は、きちんと指導を受けトレーニングを重ねた医師が行うものですが、この硬膜外麻酔とほとんど同じやり方で行う「硬膜外ブロック」はペインクリニックで頻繁に行われる神経ブロックの一つです。麻酔科医はペインクリニックで必要な「硬膜外ブロック」のプロでもある、というわけです。その他にも、麻酔科医は腕神経叢ブロックなどの末梢神経ブロックもよく行っていますが、これもペインクリニックでしばしば行われています。

 2つ目は、「麻酔科医は神経ブロックの合併症に対応できるため」です。
 神経ブロックはペインクリニックに限らずさまざまな病院やクリニックで行われていますが、神経ブロックの種類によっては合併症が起こることがあります。合併症には、経過観察だけでよくなるものから、すぐに治療を行わないと危険なものまであります。
 麻酔科医は、手術を受ける患者さんの急な容態の変化に対応できるようトレーニングを受けていますので、万が一神経ブロックによって危険な合併症が起こっても素早く対応することができます。神経ブロックにも様々な種類があり、比較的安全なものから、比較的危険なものまであります。危険な神経ブロックはやらないに越したことはないのですが、そのような神経ブロックが効果的な痛みもあります。麻酔科医として経験を積んだ先生であれば、注意が必要な神経ブロックでも必要な際には安全性に十分注意しながら行うことができます。