痛みの漢方治療Q&A

漢方薬って痛みに効くの?

 西洋医学が入ってくる前の日本は、民間薬や漢方薬で、ほとんどすべての病気やけがの治療を行っていました。その中には痛みの治療を目的とした漢方薬もたくさんあります。

 たとえば、日本頭痛学会が発行している『頭痛の診療ガイドライン2021』では、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、五苓散(ごれいさん)、釣藤散(ちょうとうさん)、葛根湯(かっこんとう)の5種類の漢方薬が掲載されています。そしてこの5種類以外にも「頭痛」という適応のある漢方薬は5種類あります。

 また、あまり知られていませんが「打撲傷」の適応のある漢方薬もあります。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、通導散(つうどうさん)、治打撲一方(じだぼくいっぽう)の3種類です。これらの3つの漢方薬にはいずれも抗酸化作用があることがわかっています。例えば、たんこぶのような外傷が関係する痛みでは、局所で酸化ストレスとそれに伴う微小循環障害が起こっていて、そのために痛みが悪化します(これを炎症性疼痛といいます)。そのような場合には、炎症を抑える痛み止めと一緒にこれらの漢方薬を飲むことで治療効果が高まると考えられます。

 ただ、様々な診療ガイドラインに漢方が「強くおすすめ」とされている記載はほとんどなく、現在の医学の中ではあくまでも補助的な位置づけです。そもそも漢方薬がなぜ・どのように効くのかに関してはまだ分かっていない部分が多く、臨床試験(漢方薬の効果を確認する調査)も難しいことなどが理由として挙げられますが、近年研究が進んで少しずつ分かっていることが増えてきています。

 痛みの治療でも、とくに強い痛み・長引く痛みの場合は、漢方薬単独ではなく他の治療方法と組み合わせて治療を行うことがほとんどです。

漢方薬は長く飲まないと効かない?

 漢方薬の種類や症状によります。

 たとえば、「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」は「急激に起こる筋肉のけいれんを伴う痛み」という適応がある薬です。急激な痛みなのに長く飲まないと効かない、というのでは困りますが、そんなことはありません。

 一方で、長く飲まないと効果が実感しにくい漢方薬や症状もありますが、多くの場合は「2~4週間しっかり飲んでもらって、なにも変化がなければ効果がないと判断する」というやり方で治療を行います。逆にいうと、効果がある場合は飲み始めて2週間くらいでなんらかの変化が出てきます。

食前だとどうしても飲み忘れてしまいます・・・

 漢方薬の服用時間は添付文書にある通り「食前」というのが保険診療のルールです。しかし、たいていの内服薬は「食後」に服用しますので、薬袋に「食前に服用」と書いてあっても食前に飲み忘れてしまうことはどうしてもあると思います。

 ではなぜ漢方薬は食前に飲むことになっているのでしょうか? じつは、はっきりとした根拠があるわけではありません。「食後に飲むと漢方薬の吸収が悪くなる」という研究結果も、これまでのところないのです。また漢方薬によっては、胃もたれしやすい生薬が入っているものは、むしろ食後の方が続けてもらいやすい場合もあります。食前にこだわって飲み忘れてしまうくらいなら、治療上の必要がある場合には、食後や寝る前に飲むということも一つの方法です。

 また日中は飲むのを忘れやすいとおっしゃる方も多いです。そのような場合は、「朝起きてすぐ」と「寝る前」と「日中どこかで1回」としたり、朝夕の2回だけにしたり、という形にすることもあります。

漢方薬には副作用がない?

 漢方薬というと安全なイメージがありますが、「薬」ですので副作用もあります。

 有名なのは「偽アルドステロン症」です。「甘草(かんぞう)」という生薬が入っている漢方薬を服用すると、アルドステロンのようなふるまいを身体の中でしてしまうとされています。その結果、血圧が上がったり、カリウムという電解質の値が下がったり、身体がむくんだりすることがまれにあります。これは体質によるものですので、実際に飲んでみなければ起こるかどうかはわかりません。時々血液検査で電解質の値をチェックすることが大切です。

 それ以外にも、まれですがアレルギー反応などの様々な副作用が報告されていますので、漢方薬だからといって必要以上に長期間飲むということはおすすめしません。しかし、生活に支障が出てしまうような眠気や便秘や吐き気といった副作用は、比較的少ないかもしれません。また、もし副作用が起こっても、中止することでほとんどの場合は改善するといわれています。

漢方薬はまずくて量も多くて飲みにくいです・・

 類によっては、粉ではなく錠剤やカプセルなど他の剤型のものがあります。また、粉も飲みにくければ味の濃い飲み物に混ぜて飲んでもかまいません。オブラートに包んで服用するという方もいます。

 また、量が多いのがエキス製剤の難点です。普通は1袋に2~3.5gくらい入っています。味ががまんできればお湯に溶かして飲むのも一つの方法ですが、中には非常に苦いものもあり、こればかりは漢方ですのでどうしようもありません。いい方法があると良いのですが。