多汗症(手のひら、足のうら、わき、頭)

どうして汗がたくさん出るの?

 汗がたくさん出るのは、汗腺(かんせん)という汗を出す組織の機能が高まっているため、と考えられています。

 手のひらや足のうらの汗は、イヌやネコの肉球の汗と同じで、すべり止めのために分泌されています。イヌやネコが敵と出会ったら逃げたり戦ったりしなければなりませんので、緊張して交感神経が優位になります。そのようなときに、足がすべらないように汗が出る仕組みになっています。

 わきの汗は精神的に緊張しているときのほかに、気温が高いときにも出ます。わきには太い血管があり、汗を出して身体の表面を冷やして体温を下げるのに役立ちます。

 頭の汗は精神的な緊張のほかに、熱い飲み物、食べ物を摂取したときにも出てきます。

 精神的に緊張するような場面ではだれでも多少は汗が出ますが、出る汗の量が多くて日常生活に影響が出てしまう場合に「多汗症」と診断されます。10代~20代の若い方に多く、寝ている間は汗が出ないなどの特徴があります。手のひらだけ、足のうらだけ、わきだけなど、部分的に汗がたくさん出る場合は「局所多汗症」と呼ばれます。

 とくに若い方にとっては、汗が出すぎることで学校や職場で周りの目が気になるなど大変なストレスになることがあります。汗のことが原因で気分の落ち込みや引っ込み思案になってしまっている場合は、早めに治療することが精神衛生上も大切です。

 一方、中高年以降で多汗症の症状が出る場合、内科的な病気や薬の副作用などの原因が隠れている可能性がありますので、一度内科で調べていただくことをおすすめします。なお、二次性の多汗症の原因として、アルコール多飲、慢性肺疾患、慢性心不全、代謝・内分泌疾患(糖尿病、甲状腺疾患、低血糖、下垂体機能亢進など)、発熱性疾患(結核など)、悪性疾患(がんなど)、薬剤(抗うつ薬、コリン作動薬、血糖降下薬、女性ホルモン薬、その他)、神経疾患(アーノルド・キアリ奇形、パーキンソン病、脊髄損傷)、閉経、精神疾患(全般性不安障害、社会不安障害など)が挙げられます。

手のひら、足のうらの汗がつらいです・・・

 保険適応の治療と保険適応外の治療があります。

 保険適応の治療では、「イオントフォレーシス」という、弱い電気が流れている水に手や足をひたす治療を行います。数十年間の歴史のある治療で、治療中は多少ピリピリする感覚がありますが、安全で費用対効果が高いといわれています。また、2023年6月に手のひらの汗に対する塗り薬が保険適応になり、イオントフォレーシスと併用して治療を行うこともできます。それでも効果が弱い場合は、飲み薬や神経ブロック、手術というオプションがあります。なお、当院ではイオントフォレーシス、神経ブロックやお薬といった保険診療の範囲内での治療を行っております。

 イオントフォレーシスは、最初は週に1~3回の間隔で治療を行っていただくと効果を実感しやすいです。耐えられる範囲で少しずつ電流を増やして4~5回行うとはっきりと効果が表れてくることが多いです。その後は症状に合わせて間隔をあけて治療を継続するのが一般的です。頻回の通院治療が大変という方には家庭用治療器のご購入をおすすめしております。

 症状が非常に強い重症の場合は交感神経遮断術という手術治療や、保険適応外の治療ではボツリヌス注射というオプションがあります。ご希望の場合は他院をご紹介いたします。

わきの汗でシャツがびしょびしょになります・・・

 まず塗り薬を試します。効果が弱い場合はボツリヌス注射を行います。重症のわきの多汗症に対しては、ボツリヌス注射の保険適応があります。注射ですのでちくっとする痛みはありますが、数か月間の効果が期待できます。効果が切れてきたらまた注射を行うことができます。治療を繰り返しても副作用が増えたり、効果が弱まったり、有効期間が短くなったりすることはありません。

 そのほか、飲み薬、神経ブロック、手術というオプションがあります。なお、当院ではお薬や神経ブロックでの治療を行っております。ボツリヌス注射など他の治療をご希望の場合は他院をご紹介いたします。

頭からの汗が止まりません・・・

 まず飲み薬を試します。効果が弱い場合は神経ブロック、手術というオプションがあります。なお、当院ではお薬や神経ブロックでの治療を行っております。他の治療をご希望の場合は他院をご紹介いたします。

 保険適応外の治療では、ボツリヌス注射というオプションがあります。ご希望の場合は他院をご紹介いたします。

多汗症の漢方治療は?

 「多汗症」「汗っかきの方」に保険適応のある漢方薬は、それぞれ補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)です。そのほかに、「ねあせ」に保険適応のある漢方薬は、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがあります。これらの漢方薬は、病後の回復期で手足というよりも体幹部や頭からじっとりと汗が出やすいというような状況や、汗っかきの体質の方のさまざまな症状に対して使われています。ちなみにこれらの漢方薬にはすべて「黄耆(おうぎ)」という生薬が含まれています。昔の人々は「黄耆」には体表から汗が出てくる孔(現代でいう「汗腺」)を閉じる作用があると考えていたようです。

 しかし、精神的な緊張で手のひらや足のうらなどに汗をかいてしまう「局所多汗症」の場合、汗が出るメカニズムが病後の回復期とは異なるため、これらの漢方薬はそれほど効果が期待できません。多汗症の飲み薬は口の渇きや便秘といった副作用が出ることがあります。副作用で継続が難しい場合や、その他の標準的な治療でも効果がもう一歩という場合には、精神的な緊張に対する過剰な反応を和らげる漢方薬を併用することもあります。

手術ってどういう手術?

 発汗を担当している交感神経の働きを、手術で神経を焼灼することで抑える手術です。全身麻酔で眠っている間に行われます。手のひらの多汗症に対しては高い有効率があると言われています。わき・足のうらの発汗については、減少する場合と逆に増える場合とがあるといわれています。また、術後の合併症として胸や背中、お尻などからの汗が多く出るようになってしまう「代償性発汗」がみられることも少なくありません。その対策として、交感神経の切除範囲を限定する等の工夫が行われています。