仙腸関節痛

仙腸関節って?どうして痛みが出るの?

 左右にある「腰骨(ちょうこつ)」の間には、亀の甲羅のような形の「仙骨(せんこつ)」という骨があります。腸骨と仙骨の間には小さな隙間があり、仙腸関節(せんちょうかんせつ)を形成しています。仙骨と腸骨の間はたくさんの丈夫な靭帯(じんたい)で連結されていて、「関節」という名前のわりにはほんの数ミリしか動かないといわれています。しかし、この微妙な動きのおかげで、ビルの免震構造のように根元から背骨のバランスを取って日常生活の動きに対応できるようにしていると考えられています。仙腸関節は地味で目立ちませんが体にとっては大切な「縁の下の力持ち」のような役割をしています。

 中腰の作業や腰椎の手術の後、けが、妊娠・出産などの影響で、仙腸関節やその周りにある組織に負担がかかると、仙腸関節の部分だけでなく、腰やおしり、股関節や太ももにかけての痛みが出ることがあります。痛みは膝上までの範囲に出ることが多いですが、まれに膝下の痛みにも関係します。老若男女問わず腰・下肢の痛みの原因の一つになっています。腰痛全体の原因の約10%という報告もありますが、仙腸関節の痛みは腰椎椎間板ヘルニアや脊椎手術後の痛みなどほかの原因の腰痛にも合併していることがありますので、実際にはもう少し多い印象があります。

仙腸関節痛はどうやって診断する?

 仙腸関節が痛みの原因になっている場合でも、腰のレントゲンやMRIの検査を行っても仙腸関節そのものに大きな異常がみられないことがほとんどです。それに加えて、股関節のあたりや太ももといった仙腸関節以外の部分に痛みが出ることもあるため、股関節を含めていろいろ検査をしても診断がつかず「原因がよくわからない痛み」と言われていることがあります。

 特徴的な身体所見や症状から、仙腸関節痛がありそうかどうかはある程度予測することができます。痛い場所を指でさしてもらうと仙腸関節付近を指す、仙腸関節やその周辺の部分を圧迫すると痛みが出る、足を組んで上から圧迫すると腰が痛くなる(かつ、仙腸関節を固定しながら行うと痛みが出ない)、仙腸関節ブロックを試してみると痛みが一時的にでも大幅に軽減することなどから診断します。

 その他にも、朝目が覚めてから起き上がるのに時間がかかる、腰を反ろうとすると膝が曲がってしまう、長い時間座っていると痛くなるので座っていられない、仰向けに寝られない、痛い方を下にして寝られない、座っていて立ち上がる時や歩きはじめ・動きはじめに痛みがあるが徐々に楽になる、といった症状が出ることがあります。これらの症状のいくつかが当てはまる場合には、仙腸関節痛の可能性を考えます。

仙腸関節痛の治療は?

 仙腸関節ブロックを数回行うとかなり良くなる場合がありますので、まずは仙腸関節ブロックを行うことが多いです。一般的に血液サラサラの薬を飲んでいる場合は神経ブロックを行う前に休薬しなければならないことがありますが、仙腸関節のまわりには大きな血管がなく、出血の危険はゼロではありませんが少ないため、血液サラサラの薬は休薬しなくても大丈夫とされています。

 仙腸関節ブロックが効果があるけどすぐ切れてしまうという場合は、仙腸関節枝高周波熱凝固という治療を行います。仙腸関節の痛みの伝達に関係している神経の働きを抑える治療で、仙腸関節ブロックよりも長期間の効果が期待できます。

 それ以外には、飲み薬、骨盤ベルト、理学療法という方法があります。飲み薬は一般的な痛み止めを使いますが、仙腸関節の痛みに対しては効果が不十分なことも少なくありません。また、仙腸関節が不安定になっていると考えられる場合は、骨盤ベルトで仙腸関節を安定させると痛みが緩和されます。腰痛ベルトとは少し違う細めのベルトを、骨盤のほう・足の付け根あたりに巻いていただきます。他に、理学療法としてAKA博田法が知られています。

仙腸関節痛の漢方治療は?

 「仙腸関節痛専用の漢方薬」というものは残念ながらありませんが、腰痛や関節痛に適応のある漢方薬を補助的に使うことがあります。仙腸関節痛は、現代病というわけではなく昔からあったと考えられますので、神経ブロックなどの治療がなかった時代には漢方薬や鍼灸等の治療が試みられていたと考えるのが自然です。

 ただ、同じ腰痛でも、例えば椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症と仙腸関節痛では、痛みの現場で起こっていることや身体に負担がかかる部分が違いますので、漢方治療も変わってきます。