腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症って?

 脊柱管(せきちゅうかん)は脊髄(せきずい)という神経の束を守る「トンネル」のようなものです。神経は傷つくと大変なので、簡単に傷つけられないように厳重に守られています。「トンネル」は背骨や椎間板、背骨同士を連結する靭帯(じんたい)などからできています。

 この「トンネル」が生まれつき狭い場合や、「トンネル」が変形して神経に影響が出てしまった場合に「脊柱管狭窄症」と呼ばれます。脊柱管狭窄症は腰(第4腰椎と第5腰椎のあたり)に起こることが多く、「腰部脊柱管狭窄症」と呼ばれたり、たんに「狭窄症」と呼ばれたりもします。

腰部脊柱管狭窄症の症状は?

 特徴的な症状は、「おしりから足にかけて痛くてしびれる」「休み休みじゃないと立ち歩きができない」です。これらの症状は、長時間立ちっぱなしだったり、歩いていたり、体を反る姿勢をとる悪くなります。逆に、しゃがんで前かがみになったり、座って休んだりするとよくなります。スーパーでカートを押すような前かがみの姿勢だと楽に歩ける、という場合が多いです。また、足のつり(こむら返り)が起こることも多くみられます。いかにも腰が痛くなりそうな病名ですが、足の症状だけで腰の痛みが出ないこともあります。

 腰部脊柱管狭窄症にもいくつかのタイプがあり、じっとしていても足の痛みが強い場合は、トンネルにあいている窓から外に出る神経(神経根)が圧迫を受けている可能性を考えます(神経根型)。また、狭窄がひどくなってくると排尿・排便機能にも影響が出てくる場合があります。

足がしびれます・・・腰部脊柱管狭窄症なのでしょうか?

 腰部脊柱管狭窄症は、特徴的な症状や身体診察でおおよそ診断をつけることができます。年齢、糖尿病の有無、前かがみや背中を反ると症状が変化するかどうか、休み休みでないと歩けないか等をチェックします。Kempテストという検査が陽性になったり、脛骨神経(けいこつしんけい)という足の神経に圧痛がみられたり、アキレス腱反射が低下していたりすることが多いともいわれています。トンネルの出口が狭くなっているタイプ場合は、足の筋力の一部が低下したり、足の一部分の感覚がにぶくなったりすることがあります。

 また、MRI検査を行うことで、トンネルが狭くなっていることを確認したり、ほかに痛みの原因がないかどうかを調べたりすることができます。その他、トンネルのどこがどのように悪さをしているか、神経ブロックが効きそうかどうか、どの場所に神経ブロックを打つとよさそうか、などの情報を得ることもできます。特に、症状がだんだん悪くなってきている場合や、治療を受けても症状がよくならない場合には、一度MRI検査を受けられることをおすすめします。

 また、「閉塞性動脈硬化症」という足の血管が細くなる病気でも腰部脊柱管狭窄症と似たような症状が出ることがあります。この場合は、姿勢とは関係なく、立ち止まるだけで足の痛みが改善する、神経ブロックが効きにくい、という特徴があります。

 その他、「深臀部症候群」というおしりの筋肉が原因で足のしびれが出る場合でも、腰部脊柱管狭窄症と似たような症状が出ることがあります。

腰部脊柱管狭窄症の治療は?

 内服薬、運動療法、神経ブロック、手術があります。

 内服薬は血管を広げて神経の血流をよくするリマプロストアルファデクスという薬や、消炎鎮痛薬が一般に用いられます。

 運動療法の例として、ネコのように四つん這いになって背中を丸める姿勢をとると脊柱管が広がって狭窄が緩和されます。また、体幹の筋力(腹筋、背筋)を鍛えることで姿勢が安定して痛みが出にくくなると考えられています。

 神経ブロックにはいろいろな種類がありますが、一般に「硬膜外(こうまくがい)ブロック」が行われます。神経の周りに治療薬を入れることで症状を緩和します。ただし、血液サラサラの薬を飲んでいたり、血を止める成分が体内に少なかったりして普段から血が止まりにくい場合は、神経の周りに出血の塊ができてしまう危険がありますので、行うことができません。また、MRI画像でトンネルの狭窄が非常に強いと思われる場合は、効果が期待できなかったり狭窄症を悪化させてしまったりすることもありますので、硬膜外ブロック以外の方法をご提案します。なお、脊柱管狭窄症の方は硬膜外ブロック自体が難しい場合や薬の広がりが予想しにくい場合があります。
 トンネルの窓が狭いタイプの場合は「神経根(しんけいこん)ブロック」が行われます。これはトンネルの窓から神経が出たところで行う神経ブロックで、窓からトンネルに薬が入ると硬膜外ブロックのような効果が得られることもあります。「椎間関節(ついかんかんせつ)ブロック」も同じ目的で行うことがあります。
 これらの神経ブロックで効果が不十分・改善がもう一歩という場合、「硬膜外腔癒着剥離術」という日帰り手術も選択肢の一つです。

 手術を考えなければならないほど症状が強い方でも、神経ブロック治療や癒着剥離術を行うことで手術を回避できる場合がありますので、お近くのペインクリニック専門医のいる医療機関を一度は受診することをおすすめします。しかし、足の力が入らず歩けない、排便・排尿がしにくいなどの症状が強い場合や、神経ブロックの効果が不十分な場合、手術治療が選択されます。腰部脊柱管狭窄症の治療を開始して、改善が思わしくなく手術に至った方の割合は2割から4割という報告があります。症状の原因が間違いなく神経の圧迫であると思われる場合には、神経を圧迫している部分のトンネルを削ってあげると、痛みの緩和が期待できます。さらに、トンネルの骨組みがグラグラになっている場合は金属で骨組みを固定する手術も追加されることがあります。ただ、手術前に長期間続いたしびれや歩きにくさは、手術を行っても改善しにくいといわれています。

腰部脊柱管狭窄症の漢方治療は?

 「腰痛」「下肢痛」に適応のある「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」や「八味地黄丸(はちみじおうがん)・八味丸(はちみがん)」が使われることが多いです。どちらも頻尿やむくみといった加齢に伴うさまざまな症状にも適応があります。その他、全身の状態をお伺いして、神経痛に適応のある漢方薬や血流改善効果が報告されている漢方薬などを併用することがあります。

 腰部脊柱管狭窄症は「トンネルが狭くなっている」ことが根本的な原因ですので、漢方治療単独ではっきりとした治療効果が得られることはあまりありません。ただ、漢方薬しか治療手段がなかった過去の時代と比べて、今では手術や神経ブロックを含めたさまざまな治療の選択肢があります。一方で、漢方薬にはほかの治療にはない効果が期待できる場合もありますので、その点も考えて治療を組み立てていきます。

治療をしたら旅行に行けるようになりますか?

 治療後の経過は症状の程度によってさまざまですので、一概には言えません。治療の効果の一例として、痛みが改善することに加えて、前かがみだった姿勢が改善して背筋を伸ばして歩けるようになったり、歩ける距離が伸びたりすることはあります。

 内服薬や神経ブロックなどの治療だけでなく、ご自身でストレッチや運動をして筋力がついてくると、少しずつ歩ける距離を伸ばしていくことができます。また運動できる強度が少しずつ上がってスキーやゴルフなどのタフな運動に復帰できたという方もいらっしゃいます。