硬膜外腔癒着剥離術

硬膜外腔癒着剥離術って?

 硬膜外腔(こうまくがいくう)は、神経の周りにある硬膜という薄い膜と、背骨との間にある空間のことをいいます。「神経の外側にあるスペース」というような意味です。

 脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、背骨の手術などによって硬膜外腔に炎症が起こると、炎症が治っていくときに硬膜外腔の「癒着(ゆちゃく)」が起こります。傷がなおるときにかさぶたができるようなイメージです。硬膜外腔の癒着が起こると、腰・足の痛みが出ることがあります。厄介なのは、癒着があると、神経ブロックの治療薬が痛みの原因となっている場所に広がりにくくなってしまい、硬膜外ブロックや神経根ブロックといった通常の治療ではなかなかよくならないことがあるという点です。

 そのような場合に、専用のカテーテルを使って神経の周りにある癒着をきれいにすることで腰・足の症状を和らげる「硬膜外腔の癒着をはがす手術」という治療法が、1980年代にアメリカで生まれました。日本では2018年に「硬膜外腔癒着剥離術」という手術として保険適応になり、今では世界各国で広くおこなわれています。当初は2⁻3日間入院して行われていましたが、最近では「日帰り手術」という形で行うことが増えてきており、当院でも腰椎由来の症状に対して日帰りでの手術を行っています。

どういう症状に効果がありますか?

 腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニア、脊椎の手術を受けた後にも続く足腰の痛みやしびれ、整形外科で調べても原因かはっきりしない足腰の痛みやしびれに対して、神経ブロック治療を数回行っても効果が一時的、症状の改善が思わしくない場合には、造影検査の結果を踏まえて癒着剥離の治療をご提案しています。

 また、腰の手術を受ける前になるべく症状を緩和しておきたい場合や、手術をなるべく避けたいけれど他の治療では症状が改善しない場合の治療としての適応もあります。

治療は痛いですか?合併症は?

 専用のカテーテルを癒着している場所に進めるために、神経ブロックで使う針より太い針を使います。最初に麻酔をしてから行いますが、ぐっと押される感じは通常の神経ブロックよりも強いかもしれません。また、癒着を剥離する瞬間は一時的に痛みを感じます。

 その他の合併症として、出血、硬膜外血腫、感染、硬膜外膿瘍、頭痛、神経損傷、血管損傷、カテーテル破損、膀胱直腸障害、麻痺、液圧による脊髄損傷、薬液の硬膜下・クモ膜下注入などのいずれかが1.2%にみられたという報告があります。また、癒着剥離の際には硬膜外腔にある血管やその周辺の組織から出血が起こる可能性がありますので、内服薬やご病気の影響で血が止まりにくい方は治療を行うことができません。

治療前後の注意点はありますか?何回も治療できますか?

 治療前に神経の状況を詳しく把握するために、最近のMRI検査結果をお持ちでなければMRIの検査を行っていただきます。また、同じ目的で数回神経ブロックや造影の検査を行います。

 治療後は癒着の再発を防ぐためにストレッチを行っていただくことが大切です。治療後には1時間ほど安静にしていただきますが、その間にベッド上でストレッチの練習を行います。治療の翌日からはご自宅で行っていただきます。治療の当日はなるべく安静にしていただくようお願いしていますが、翌日からは激しい運動を除けば通常通りの生活をしていただいてかまいません。ただ、治療後の2~3日間は癒着をはがした影響で痛みが出ることがありますので、痛み止めを服用していただきます。

 治療後もしばらく時間が経つと癒着が再発してくることがあります。治療で一度癒着を剥離していますので、神経ブロックだけで改善する場合もありますが、そうでない場合は期間をあけて再度治療を行うこともできます。