腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアはどこにできる?

 ヘルニアが起こりやすい場所があり、腰椎の4番目と5番目の間、腰椎の5番目と仙骨(せんこつ)の間が多いです。なぜこの場所に起こりやすいかというと、腰椎の中で最も動きが大きく、ヘルニアが飛び出さないように支えている組織が傷みやすいことが原因の一つと考えられています。

 特に若い方では、腰椎椎間板ヘルニアのほとんどがこの場所に起こり、腰の痛みに加えて、太ももの外側や裏側、膝下の外側やふくらはぎ、足の指まで痛みやしびれを感じます。

 一方、高齢の方の場合は、それよりも上の腰椎でのヘルニアの割合が多くなります。その場合は、太ももの付け根や膝あたりに痛みやしびれが出ることがあります。

腰椎椎間板ヘルニアは自然に治るって本当?

 症状のある腰椎椎間板ヘルニアのうち、60%以上でヘルニアが自然に小さくなります。最初のヘルニアが大きいほど吸収されやすいと言われていますので、「ヘルニアが大きいから手術しないと治らない」というわけではありません。急に飛び出したヘルニアは、だいたい3か月以内に吸収されることが多いです。

 また、ヘルニアのタイプによって、自然に小さくなりやすいものとそうでないものがあります。椎間板は外側の線維輪(せんいりん)と中心にある髄核(ずいかく)からできています。おまんじゅうで例えると、皮(=線維輪)と中身のあんこ(=髄核)のような関係です。あんこ(髄核)がおまんじゅうの皮(線維輪)から飛び出していないタイプのヘルニアは小さくなりやすく、あんこ(髄核)がおまんじゅうの皮(線維輪)の外側にはみ出してしまっているタイプは小さくなりにくい、と言われています。

 特に腰痛や足の痛みなどの症状がなく、たまたま検査で発見されるヘルニアもあります。そのようなヘルニアは、時間が経っても大きさが変わらず、特に症状も出さないことが多いです。ヘルニアが多少出ていても腰痛や足の痛みといった症状が出ないこともありますので、そのような場合は特別な治療は必要なく、様子を見て大丈夫です。

ヘルニアって言われたけど手術はしたくないです・・・

 症状やヘルニアのタイプにより変わりますが、症状が強いほど、手術になる場合が多い傾向があります。割合は20%から50%くらいといわれています。とくに、足の痛みが強くて歩けない・仕事ができない、排尿・排便機能に影響がある場合は、早めに手術をおすすめすることが多いです。

 神経ブロックや内服薬などの保存治療であまり長期間粘ってしまうと、いよいよ手術となったときに症状の回復があまり期待できなくなってしまう可能性があります。

運動しすぎたからヘルニアになった?

 スポーツとヘルニアの関係は昔から色々調べられてきましたが、今のところは「スポーツは腰椎椎間板ヘルニアの発生とは明らかな関係がない」と考えられています。運動をすることでヘルニアになりやすいということはなく、また運動していたらヘルニアになりにくいということもないようです。一方で、椎間板は圧縮によるポンプ作用で血液が流れて栄養されるという一面もあるため、全く運動しないよりは、多少運動して椎間板に適度なストレスを与えるほうがよいという考えもあります。
 また、重たいものを持った時にヘルニアが飛び出るというイメージがありますが、必ずしもそういうことがなくても自然にヘルニアが飛び出てしまうこともあります。

 スポーツ以外では、喫煙がヘルニアの発生リスクを高めることがわかっています。たばこを習慣的に吸っていると、腰椎の椎間板が傷みやすくなるという報告(Neurochirurgie. 2020 Nov;66(5):373-377.)や、頸椎の椎間板が傷みやすくなるという報告(Int J Surg. 2018 May;53:269-273.)があります。その理由の一つとして、ニコチンを慢性的に摂取していると、軟骨成分が減少し椎間板が傷みやすくなることが関係していると考えられています(Cell Transplant. 2021 Jan-Dec;30:9636897211045319.)。また、椎間板はもともと血管が少なく、喫煙の影響で少しでも血の流れや酸素供給が悪くなると、椎間板が栄養不足になってしまうという機序も関係している可能性があります。

 さらに、遺伝も影響していることがわかっています。とくに若い方の腰椎椎間板ヘルニアでは、ご家族にも腰椎椎間板ヘルニアをお持ちの方が多いということが報告されています。

腰椎椎間板ヘルニアの症状は?

 腰痛だけではなく、太ももの裏から膝下まで痛みが走ることや、咳やくしゃみをしたときに痛みが悪化する、足に力が入らない・感覚が鈍い、痛みの強弱が姿勢や動作と関係する、といった症状があれば、腰椎椎間板ヘルニアを疑います。

 比較的若い方に多い、第5腰椎あたりの腰椎椎間板ヘルニアでは、おしりや太ももの裏に痛みが出るいわゆる「坐骨神経痛」の症状が出ます。これは、坐骨神経が、第4腰椎以下の神経が合わさってできているためです。

 ただし、「本当に腰痛や足の痛みが腰椎椎間板ヘルニアが原因なのかどうか」を診断するのは簡単ではない場合があります。レントゲン検査ではヘルニアは映りませんが、ヘルニア以外の病気がないかをチェックするのには役立ちます。ヘルニアの診断にもっとも役に立つのはMRI検査ですが、ヘルニアを疑ってMRI検査をしてみても、症状を説明できるような変化がみられない場合も少なくありません。原因となっている箇所がはっきりしない場合に、神経根ブロックを行うことで原因となっている部分を発見できる場合もあります。症状や身体所見、画像所見、神経根ブロックの結果などを総合的に考えて、腰椎椎間板ヘルニアが痛みの原因になっているかどうかを判断します。

ヘルニアの治療はどうしたらいい?

 急に飛び出たヘルニアは自然に小さくなることが多いため、まずは手術以外の方法で様子を見ることが多いです。具体的には、内服薬を使ったり、神経ブロックを行ったりしながら、ヘルニアが小さくなるまでの時間稼ぎをします。
 主な神経ブロックには、硬膜外ブロック、神経根ブロック、腰神経叢ブロックがあります。ヘルニアが神経を圧迫して痛みの原因となっている場所では、炎症が起こっていると考えられるため、神経根ブロックを行う場合は炎症を抑える薬を使うことが多いです。
 その他に、運動や牽引、コルセットといった治療も一般に行われています。

 これらの治療でもなかなか痛みが治まらない場合や、足の力が入りにくい状況が続く・または悪化するという場合は、手術を含めた「一歩踏み込んだ治療」を検討します。下記のような治療が必要と考えられる場合は、適切な医療機関にご紹介します。

*ペインクリニックで行われる治療
・神経根パルス高周波法・・・神経の根元付近に電場を発生させ痛みを緩和する方法です
・椎間板内治療(コンドリアーゼなど)・・・椎間板の中に針を入れて行う治療です
硬膜外腔癒着剥離術(Raczカテ―テル)・・・神経の周りに炎症が起こった結果、周りの組織の血流が悪くなったり神経の動きが悪くなったりしている場合に専用のカテーテルを用いて癒着をはがす治療です

*整形外科・脳神経外科で行われる治療・手術
・椎間板内治療(コンドリアーゼなど)
・椎間板摘出術(肉眼・顕微鏡・内視鏡)など

ヘルニアに効く漢方薬って?

 腰痛や足の痛みに適応のある漢方薬はいくつか種類がありますが、代表的なものはこの3つです。

 ①芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)・・・「急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛」や「筋肉痛」に適応があります
 ②八味丸(はちみがん)八味地黄丸(はちみじおうがん)・・・「下肢痛、腰痛」に適応があります
 ③桃核承気湯(とうかくじょうきとう)・・・「腰痛」に適応があります

 ただし、漢方治療だけで痛みをコントロールすることは難しく、また1種類だけでは効果をあまり感じられないことも多いです。相性のいい組み合わせもありますので、ご希望される場合には症状や胃腸の状態などをお伺いして漢方薬を処方することもありますが、漢方治療はあくまでも補助的な位置づけになります。

ヘルニアの手術をしたのに症状が良くならない・・・どうして?

 ヘルニアの手術後であっても、ヘルニアが再発して再手術が必要になることがあります。ヘルニア再発以外にも原因はいくつか考えられますが、一つの例をお示しします。

 腰椎椎間板ヘルニアには、大きく分けて①真ん中~やや外側に向かって飛び出すタイプ、②かなり外側に飛び出すタイプ、の2つのタイプがあります。②は「外側型ヘルニア」と呼ばれています。
 通常は①が多く、診断もつきやすいのですが、②は手術前に診断することが難しい場合があります。
 また、①の他に、②の外側型ヘルニアを含めた別の要因が神経を別の場所で圧迫していることがあり、その場合に①だけを治療しても症状が残ってしまう、ということが起こりえます。

 また、脊椎の手術を受けた後にも痛みなどの症状が残ったり再発したりする状態はまれではなく、「脊椎手術後症候群」という名前がつけられています。腰椎椎間板ヘルニアの手術後にも、一定の割合で起こることが報告されています。
 脊椎手術後症候群の原因は複雑で、特定することが難しいことも多いですが、痛みの原因と考えられる部分(硬膜外腔の癒着による神経根障害・椎間関節・仙腸関節・梨状筋など)がある場合には、その部分に対して神経ブロックを行います。硬膜外腔という神経の周りにある小さい空間に造影剤を入れてみて、造影剤の広がりが悪い場合は硬膜外腔の癒着を疑います。その癒着が症状の原因になっていると考えられる場合は、それに対する治療を検討します。

たばこがヘルニアに良くないと聞きました

 たばこを習慣的に吸っていると、腰椎の椎間板が傷みやすくなるという報告(Neurochirurgie. 2020 Nov;66(5):373-377.)や頸椎の椎間板が傷みやすくなるという報告(Int J Surg. 2018 May;53:269-273.)があります。たばこを吸っていない人に比べて約1.3倍ヘルニアになりやすいという報告もあります。

 その理由の一つとして、ニコチンを慢性的に摂取していると、軟骨成分が減少し椎間板が傷みやすくなることが関係していると考えられています(Cell Transplant. 2021 Jan-Dec;30:9636897211045319.)。

 また、椎間板は血管が少なく、少しでも血の流れが悪くなると、椎間板が栄養不足になってしまうという機序も関係している可能性があります。

椎間板が傷んでると言われたけど、一生このままということ?

 一度傷んでしまった椎間板がすっかり元通りに戻るということは難しいかもしれません。車の部品とは違って椎間板だけ新しいものに交換するということはできませんので、負担がかからないように大事に使っていくことを考えます。

 考え方としては、「椎間板に適度な負担をかけるのはOKだけど、過度な負担をかけるのはNG」です。過度な負担がかかる動きの例として「前かがみで重いものを持つこと」がありますので、急に前かがみになったり、急に背中を反ったり、急に体を左右にひねったりという動作は避けてください。そのうえで、ウォーキングや適度なストレッチ、スクワットなどの筋力強化を少しずつ行っていただくのがおすすめです。

リリカ(プレガバリン)やタリージェ(ミロガバリン)を処方されて内服していますが、効果がよくわかりません

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